耳の病気
耳は、音を大脳に伝える器官で、外耳・中耳・内耳から成っています。 鼓膜は中耳、三半規管は内耳の一部です。 もちろん音を伝えるだけではなく、体のバランスを保つ平衡器官としての役割にもなっています。
中耳炎
中耳炎の原因
「中耳」と呼ばれる場所にばい菌が入る経過は2つ考えられます。1つは外側①から、もう1つは鼻から入る経路②です。 プールやお風呂で潜っても中耳の中にばい菌は入りませんよね。鼓膜は音を拾うためだけではなく、中耳を守るバリアーの役目をしています。
経路②は「耳管」と呼ぶのですが、鼻につながっています。風をひいて鼻が悪くなると、鼻から中耳に菌が吸い込まれます。そのため、中耳炎は②を経由して起こることが多いのです。 中耳炎は子供でも大人でも起こります。子供で起こりやすいのは、子供は大人に比べて顔が小さく、耳管の距離も短く、比較的太いためです。子供はかぜをひくと中耳炎にかかりやすく、治療せずに放置していると慢性中耳炎や滲出性中耳炎に移行することもあります。
豆知識:どうして耳が痛くなるのですか?
図に示すように、中耳の中に膿が貯留すると、皮膚をつねり上げた様に鼓膜が伸展します。 この為、耳に激痛が起こるのです。
豆知識:なぜ膿が出ると痛みが無くなるのですか?
痛みの原因は皮フや鼓膜の過伸展ですから、膿が外に出てしまえば鼓膜の伸展は無くなり、痛みが消失するのです。
豆知識:寝ている時に中耳炎が多いのはなぜですか?
起きている時、貯まった鼻汁は重力の作用でのどに降りてきます。一方、寝ている時は重力の作用で鼻の奥に鼻汁が貯まるため、中耳炎になりやすくなります中耳炎の治療
中耳炎の治療は、耳の中の菌を殺すために抗生物質を飲んだり、耳の痛みを除去するために鼓膜を切ったりします。鼓膜に穴を開けてしまえば、痛みは通常消失しますので、痛みのひどい時に行います。 中耳炎を繰り返す時は、鼓膜にチューブを留置します。 スポイトを思い出してください。スポイトの底に穴を開けてしまうと、水を吸い上げられなくなります。 鼓膜にチューブを留置することにより、鼻の中の膿は耳へ流れ込まなくなります。
滲出性中耳炎
鼓膜の内側(鼓室)に液体がたまっている状態で、聴力の低下(難聴)を伴います。 再発の可能性も高く、滲出性中耳炎を放置すると、一部には永続的な難聴に移行する例もあります。 聴力の低下は学習にも影響するケースもありますので、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
真珠腫性中耳炎
鼓膜の一部が奥に入り込むことで、進行すると強い炎症や骨破壊を生じることもあります。 耳だれ、難聴、めまい、顔面神経麻痺などを併発することもあります。完治には手術が必要となります。
コラム:中耳炎とインフルエンザ
中耳炎の原因菌のひとつに、“インフルエンザ稈菌”というのがあります。これは鼻に常在している細菌で、いわゆるインフルエンザの原因であるインフルエンザウィルスとは別のものです。 それでは、インフルエンザにかかった場合は中耳炎にならないのかと言いますと、鼻づまりの症状が出ているなら要注意です。鼻の中にいる細菌は、鼻がつまって空気の通りが悪くなると活性化しますので、毛細管現象によって耳の中に入り込む危険性が高まります。 ちなみに鼻やのどにいるばい菌は、インフルエンザ稈菌だけではなく、肺炎球菌、ブランハメラ・カタラーリスなどがあります。しかし、これらが必ずしも凶暴化して中耳炎を引き起こすというわけではありません。内耳炎
耳炎が悪化すると、まれに内耳まで炎症が広がることがあります。難聴、耳鳴り、めまいを伴います。 最近では抗生物質の普及などで発症が減少したとも言われていますが、後遺症が残ることがありますので、やはり速やかに耳鼻咽喉科を受診されることをおすすめします。
外耳炎(外耳道炎)
外耳炎の原因と症状
外耳炎は耳カキをよくすることにより、耳が痛む病気です。12時間以内に耳を綿棒や耳カキで掃除したとのヒストリーがあれば、ほぼ間違いないと思います。
図に示す通り、耳たぶ(耳介)と外耳道はつながっています。左の様に耳たぶを引っ張った時、外耳道の傷口も同様に引っ張られます。 つまり、外耳炎の時には、耳たぶを引っ張った時に耳を痛めるのが、多いようです。 外耳炎の痛みは、時に非常に強いものになります。
足や手の痛みは、一度背骨にいってから脳で痛みを感じます。 耳の痛みは直接脳を刺激しますから、外耳炎の痛みは非常に強くなります。 治療としては、抗生剤や鎮痛剤の内服になりますが、痛みの強い時は点滴をすることもあります。
びまん性外耳炎
主に細菌によって引き起こされ、かゆみと痛みを伴います。 白または黄色の耳だれが出ることもあり、重度になると外耳道が腫れて耳がふさがってしまうこともあります。
限局性外耳炎(耳せつ)
外耳道にできるおできで、激しい痛みを伴います。 普通は3~6日で自然につぶれて膿が排出されますが、症状がひどい場合は切開処置が必要となることもあります。
耳だれ
耳だれは、耳の中から液体状のものが流れ出る状態を言います。 軟質の耳垢を耳だれと間違うケースもありますが、耳だれは外耳炎や中耳炎に由来するものです。中耳(鼓膜の内側)から出ている場合は鼓膜が破れています。 お子さんの場合は、外耳炎ではなく急性中耳炎である場合が多いようです。耳だれが出ているときは麺棒で耳の入り口付近だけをぬぐい、速やかに耳鼻咽喉科にお越しください。
コラム:アメ耳は、狩猟民族の名残り?
日本人の7割は、乾いた耳垢です。3割くらいが軟質の耳垢、いわゆるアメ耳をしているのですが、西洋人は逆に、ベタベタの耳垢が7割なのだそうです。 これは、農耕民族と狩猟民族の違いで、生活スタイルに合わせて進化して来た結果なのだそうです。 鼻水が鼻からの異物を防ぐように、ベタベタの耳垢は耳から入って来る虫などの異物を防ぐ役割があるということです。 野山を駆け巡る狩猟民族の方が、異物が入る危険性が高いので、環境に適応してべたべたの耳垢が多くなったのだそうです。 さて、現代では西も東も、狩猟生活でも農耕生活でもない生活スタイルの人が多くなりました。人間の耳は、これから長い時間をかけてどのように変化して行くのでしょうか?突発性難聴(とつなん)
突然に起こる原因不明の感音難聴を「突発性難聴」と呼びます。 循環障害、ウイルス感染、免疫異常など、さまざまな原因が考えられていますが、原因に関しては不明です。 また2週間以上放置してしまうと、予後不良となる可能性が高くなる疾患です。 ステロイドによる投与効果は十分で有効性に対する検証はされていませんが、ファーストチョイスになることが多いです。 緑内障や糖尿病、胃潰瘍などの重傷の基礎疾患が存在する場合、ステロイドの全身投与ができませんので、ステロイド鼓室内投与を含めた他の治療を選択することになります。 ステロイド鼓室内投与に関しては、全身投与とほぼ同等の効果が期待されておりますが、施行後鼓膜穿孔のリスクが残ることになります。 高圧酸素治療に関しては、ステロイド治療と同様にアメリカでは否定されておりませんが、日本では高圧酸素治療が可能な施設は少ないのが現状です。
上の図を見てみてください。2週を過ぎると「不変」が急に増加することになります。 前記で示したように、突発性難聴は充分な治療効果が得にくい疾患です。 耳鳴りや聴こえに問題が発生した場合は、なるべく早期に耳鼻科での検査を進めさせていただきます。
コラム:“難聴”は意外と気付かない?
“難聴”とひと口で言っても、原因や体質によって障害の具合が違います。 ・低音だけが聞こえない ・高音が半分だけ聞こえる ・片方の耳は聞こえる このように、必ず“全く聞こえない”というわけではなくとも、手当てが遅ければ後遺症として残る確率は高くなります。 また、難聴の程度が低いから治りやすい・・・というものでもありません。不安なときは、耳鼻咽喉科へ。早期治療が回復の決め手です。耳鳴り
- 加齢性難聴(加齢に伴うもの)
- 病気によるもの
- 突発性難聴
- 聴神経腫瘍
- 急性低音障害、感音難聴
- その他
- 職業性のもの(騒音性難聴)
- 血圧上昇、血管に原因があるもの
- 筋肉の痙レンによる耳鳴り
- その他
耳鳴りは、上に記したようにいくつかの原因により出現します。 特に、耳の病気によるもの、脳に原因があるものに関しては、やはり治療が必要になります。 一度必要な検査を受けておきましょう。 耳鳴りは、脳で起こっているようです。 耳は単なるマイクの役目に過ぎず、壊れたマイクを使おうとしてボリュームを上げてしまいキーンと大きな音をさせてしまった経験があると思いますが、耳鳴りはほぼ同様のことです。 マイク(耳)を修理できれば良いのですが、現在の私たちの医療では修理は難しいかと思われます。 「修理ができないマイクの代わりに、別のマイクを用意する」、これが補聴器です。実際、補聴器の使用で耳鳴りが軽減するケースもあるようです。 耳鳴りでお悩みの方は、一度耳鼻科で調べてみてはいかがでしょうか。
めまい(メニエール病など)
- 血の流れの異常、椎骨脳底動脈循環不全など
- 血圧の異常、起立性低血圧、高血圧
- 内耳障害によるもの(良性発作性めまい、メニエール病、前庭神経炎など)
- 脳(小脳を含む)の異常
- その他
人により表現方法は異なりますが、貧血や脳の異常によるフラフラ感も、「めまい」として患者様が訴えるケースがあります。 実際問題として、いろいろ議論がされると思いますが、耳が原因のめまいは、リハビリ及び自然治癒するケースが多いようです。 しかし、めまいとして受診されるケースの一部に、脳(小脳を含む)や血圧血管の問題、ストレス、その他の問題が含まれるのも事実で、そのようなケースを見逃してしまうと、死亡したり、長期に渡りめまいに悩まされるケースが多いようです。 私たちの施設では、なるべくそのようなことがないよう、めまいの検査もある程度充実しております。 めまいでお悩みでしたら是非ご来院ください。 めまいの中には、耳の異常が原因で起こるものがあります。耳の異常が原因の場合は耳鼻咽喉科での治療が必要となりますので、めまいを起こしやすいと感じたら、まずはご相談ください。
メニエール病(メニエール症)
音が伝わるしくみからご説明すると、まず、鼓膜から内耳の水(体液/内リンパ液)を通して伝えられた音(振動)が、内リンパ液の中に浮かんでいる神経を揺らします。この神経の揺れを電気信号に変えることで初めて“音”として認識できます。 内リンパ液は常に新鮮である必要があり、正常であれば、古い内リンパ液を吸収して新しい内リンパ液と交換する循環機能が働いています。 循環機能が悪くなると、水ぶくれ(内リンパ腫)ができます。メニエール病は、この水ぶくれが破裂することで起こる病気です。 循環機能をコントロールするのは、自律神経です。疲労がたまったり、精神的負担が大きいときにメニエール病を発症しやすいのは、このためです。
サーファーズイヤー(外耳道外骨腫)
鼓膜の周りに骨のでっぱりができて、外耳道が狭くなる病気です。 耳に冷たい水や冷気が入る状態が長く続くと、内耳や脳が慢性的に冷やされるのを防ごうとして外耳の軟骨が突出してくるために、この症状が起こります。進行すると外耳道がふさがれて、聞こえにくくなります。 サーフィンをする方に多いので「サーファーズイヤー」と呼ばれますが、漁師や海難救助隊員など、日常的に冷たい水に入る職業の方にも多い症状です。